東京大学読書サークルこだま 公式ブログ

東京大学読書サークルこだまの公式ブログです。部誌『こだま』に掲載している文章などを公開していく予定です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

馬鹿げた冬    冬眠をしない猿人類と冬眠をする哺乳類

作者:伏春灯 12月初旬 ああ、寒すぎる。ベットから出たくない。しかし生理欲求には勝てない。トイレにいかなければシーツの洗濯が必要になる。シーツかトイレかの選択ということか......。 しゅうしゅうと、謎の音。なにかの液体が太ももにあたる不快な感…

エッセイ 自分と文学との関わりを振り返る

作者:山下純平 はじめに ― 1人の読者の声を踏まえて― 僕の文学遍歴 ―文学好きとの出会いと、やがて自身が文学好きとなったこと― 自分なりの読み方の発見 ―"夏目漱石らしさ"を脳内につくり出すこと― 挫折を経て ―書物から人間へ― おわりに ―自分の中の”文学”…

『こだま』3号を公開します

こんにちは、読書サークルこだまです。お彼岸が過ぎて、少しずつ涼しい気候になってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 さて、夏休みの間の活動成果として、『こだま』3号が完成しました。今回は、「偶然」という一つのテーマを念頭に置きながら…

キャッチボール

一. 僕たちはいつもキャッチボールをしていた。僕が彼と会った時には、どちらから言い出すともなく、公園に行ってキャッチボールをして遊んでいた。ゆっくりとボールを投げてゆっくりとボールが返ってくる、のんびりとしたキャッチボールが好きだった。少し…

帰納的人生讃歌

昔々、あるところに一人の運命信者がいました。「私の人生に起こることはすべて、あらかじめ運命によって定められたことだと思うの。出会う人、起こる出来事、全てにきっと意味がある。私はひとつの運命に導かれて今この道を進んでいるの。」「なるほどねぇ…

夢一夜(仮)

通りすがり、夜通し独り語りでも聞かせてよ二人よがり、灯りなんかに気を取られないように踊り明かせないかな? 体より心を見て、とシャッフルのラブソングが言ってる歌い上げるロマンティシズム理性がお好きみたい 明け方の街の雑踏罪もない仮面ばかり 恋と…

二〇二〇年の「観光客」として

コロナ禍で、どこか遠いところへ行く機会はずいぶん減った。逆に、今までやっていた旅行っていうのはそもそも何だろう、と考えてみたりもしている。 ガイドブックとにらめっこし、その写真に載っている観光名所を実際に見、これで目的は達成できたと満足して…

『こだま』三号に寄せて

ぼくらは偶然を欲している。目の覚めるような出会いを。心臓を高鳴らせる眩い光を。それと出会った瞬間、今までの人生はすべて嘘だったと思ってしまえるような極彩色の刺激たちを。 ぼくらは必然を欲している。あの出会いが自分を変えた、あの言葉が自分を救…

『こだま』2号 目次

こんにちは、読書サークルこだまです。皆さまいかがお過ごしでしょうか。 さて、このたび部誌『こだま』2号が完成したので、公開します。目次は以下の通りです。 書評 英国ミステリの世界 〜『カササギ殺人事件』書評〜 日奈坂俊樹 https://kodama-echo-read…

底の方から

雨音が聞こえる。二つ目のアラームが鳴り響いている。深い眠りが乱されて、ちょうど今見ていたばかりの夢が終わりを告げる。薄暗い部屋。不明瞭な意識の中に、ざぁざぁと雨の降る音が流れ込んでくる。 寝起きで冴えない頭に必要最低限のエネルギーを送り込み…

英国ミステリの世界 〜『カササギ殺人事件』書評〜

『カササギ殺人事件』 アンソニー・ホロヴィッツ(著)/山田蘭(訳) 創元推理文庫 画像:版元ドットコムより 王道の英国ミステリと現代ミステリを掛け合わせたストーリーが二巻の小説にぎゅっと凝縮されており、読者のミステリ欲を余すところなく満たしてく…

鑑賞 「わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人にはつげよ海人の釣り舟」

はじめに この文章は、国文学の古今和歌集のゼミにて、小野篁「わたの原」歌を取り上げて発表をした際におまけとして書いた、個人的な文章です。流罪に処せられた小野篁の心境に思いをはせ、出立の際の情景を思い浮かべながら鑑賞文を書いてみました。 「わ…

無常と古典

無常の世にあって、文学作品はなぜ時空を超える力を持つのだろうと、以前から不思議に思っている。 この世が無常であることは、多かれ少なかれ皆が納得するだろう。栄華栄耀を極めた一族もやがては滅びゆくこと。災害や疫病により、世の中が大きく変動するこ…

夢十一夜

こんな夢を見た。 立て付けの悪い硝子戸をがらがらと開けると、既に電気が点いていた。何でも余程古い家らしく、畳や襖から生じた一種の香りが鼻を抜ける。何処かで見た風景だと思ったら、自分が幼少の頃によく連れて行かれた田舎の伯父さんの家だと解った。…

連載 「『注文の多い料理店』の謎を解く」 第二回 紳士たちはなぜ扉の指示のあやしさに気付かなかったのか

はじめに お店の指示に忠実に従う紳士二人 すぐにだまされる人たち 『双子の星』のチュンセ童子とポウセ童子 『オッペルと象』の象 目の前の言葉を信じ込む傾向 僕と、宮沢賢治 エピソードその一 「乗ってええで」 エピソードその二 ルービーを求めて 僕の〈…

『こだま』創刊号

こんにちは、東京大学読書サークルこだまです。 先月に発行した『こだま』創刊号の文章を、はてなブログで公開することにしました。 目次は以下の通りです。 活動紹介 読書班 活動紹介……………………………………………………橋詰和直https://kodama-echo-reading.hatenablog.c…

創刊号 編集後記

表紙の写真は、2019年7月13日、新宿御苑にて撮影。なかなか明けない梅雨。穏やかな雨が、水面に次々と丸い水紋を広げていくのを、見ていた。言葉にできないくらい美しい景色。それを言葉にした時、きっとこぼれ落ちてゆくものはたくさんある。言葉にしたこと…

『夢日記』

その夢を見たのは、打ち上げ花火を見た日の夜だった。 まわりは真っ暗で、暗闇に慣れた目が辛うじて地面の輪郭を捉えていた。私は山奥にいた。山、と言っても、草木が生えている様子はない。ゴツゴツした黒い地面を見つめながら、星を見ようと歩いてのぼって…

連載「『注文の多い料理店』の謎を解く」    第一回 制裁を受けたのは誰か

○はじめに 『注文の多い料理店』の謎について、またこの連載について ○制裁を受ける権力者たち ・紳士二人に対する制裁 ―あらすじを整理しつつ ・店主の山猫に対する制裁 ・『オッペルと象』 オッペルに対する制裁 ○誰がどこまで制裁を受けるのか ・『カイロ…

創作班 活動紹介

「東京大学読書サークルこだま」の創作班の班長を務めています、文学部三年の山下です。 創作班の活動は、自発的に文章を書いて、部誌『こだま』に掲載することです。 文章の形式や内容は、基本的には自由です。批評や書評、文学研究に近いものでもいいです…

読書班 活動紹介

1.活動内容神保町さんぽ・ビブリオバトル・本(課題図書)を読んだ感想の共有・しおり作り・東大生協駒場書籍部さんとのコラボ企画・創作班と合同での五月祭/駒場祭の出店等及び企画会議。 2.活動頻度1 回/月。前の月に企画した活動及び次の月に行う活動の企…

人間の根源を問うこと ―ゴーギャン・夏目漱石の紹介

六人部昭典『アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたいゴーギャン 生涯と作品』東京美術、2009年 ゴーギャンの人生は、旅に満ちたものでした。彼はまず、幼少期の6年間を家族と共にペルーで暮らしています。大人になってからも、しばらくの間はパリ…

旅としての小説

紋切り型のざっくりした表現だが、海外でも日本でも、近代以降の小説には「個人」が描かれるようになったと言われる。人間の心理と言い換えてもよい。夏目漱石の『こころ』が長きにわたり評価されているのは、まさしく個人の「心」の内奥そのものが小説のテ…

溶け合う ―川端康成『伊豆の踊子』を読んで―

雨水や、川の流れ、陽の光を反射する海、そして零れ落ちる涙。それらの水が全てやわらかく溶け合って、静かに澄んだ充足感を心に残す。『伊豆の踊子』を読み終わったあと、そんな感慨に襲われた。 川端康成の情景描写、とりわけ水の描写は圧巻の美しさだ。私…