東京大学読書サークルこだま 公式ブログ

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馬鹿げた冬    冬眠をしない猿人類と冬眠をする哺乳類

作者:伏春灯

12月初旬
 ああ、寒すぎる。ベットから出たくない。しかし生理欲求には勝てない。トイレにいかなければシーツの洗濯が必要になる。シーツかトイレかの選択ということか......。

    しゅうしゅうと、謎の音。なにかの液体が太ももにあたる不快な感覚。奥の方から漂う謎の強烈な冷気。どうしてトイレの水が凍ってる?とりあえず水を流そう。多分大変恐ろしいことになるけど全て水に流してシャワーでも浴びて身体を綺麗にしよう。

 洗面所が異常に寒い。私の理性は一刻も早く汚れた身体を綺麗にしたいと言う。賛成だ。服を脱ぐ。風呂場に入る。とてつもなく寒い。震えながら蛇口を捻り湯を浴びる。浴びる?何も出てこない。水でも何でもいいから出てきてほしい。蛇口を365度ぐらい捻る。何も出てこない。私はもう耐えられず下着と上着だけ取り替えて風呂場から出る。

 暖を取るために部屋にある全ての上着を羽織る。それでもやや寒い。エアコンのリモコンはどこ?探してる間に睡魔が蘇る。そうだった、まだ夜も更けていなかった.....


 風が窓を叩きつける音で目を覚ます。私はテーブルの下で寝ていたらしい。目の前にエアコンのリモコンが置かれている。

 ドアが開く音がした。「あ、起きてたんだ、」夜勤が終わったばかりのCの奴と目が合う。「こんなに寒いとそりゃ目が覚めるしトイレをすれば身体を汚すしシャワーを浴びれば水さえ出てこない」「なるほど。」私たちは身体を温めるためにも朝食を取ることにした。Cの奴は夜勤で疲れているだろうし私が朝食を作る。めんどうだからおかゆあじポンと生卵で誤魔化す。

 「そういえばさ」Cの奴は眠そうな目でこちらを見る。「どうして我々人間は冬眠をしてはいけないんだろうね?」私はCの奴が何を意図しているかさっぱり検討がつかなかった。

 「それで?」私はCの奴に聞く。「つまりだね?我々は一度くらいはさ、冬眠してみてもいいんじゃないかな。」私は奴がからかっているのかと思った。「正気か?」「正気だよ、だってこんなに寒いんだからね」

 


 昼頃になると、Cの奴が早速冬眠の準備に取り掛かった。勿論私も付き合わせられた。

「まずはこのパインニードルを腹一杯食べることだ」こんなチクチクしてる、良く分からない食べ物を?冬眠の伝統とはまずパインニードルを食べる事から始まるらしい。

「次に庭の干し草をすべて伐採して部屋に敷き詰めるよ。」
どうして伝統的冬眠と言うのはこんなにチクチクしたものだらけなのだろう?Cの奴は誰かに電話しているようだった。

「何をしている?」私は聞く。「連絡だよ。家族とか友達とかにね。君も冬眠の邪魔をされたくないだろう?」「なら私はガス会社や水道会社、電気会社に連絡をしよう。」私たちの冬眠の準備は着々と進んでいた。


    太陽も真上に上ったというのに、気温は上がる気配すらしない。私はこれ以上寒くなる前にもう寝たかった。冬なんて何より大嫌いなのだ。

「もうそろそろ頃合いだろう。」私は部屋中に干し草を敷き詰めながらCの奴に言う。「確かにそろそろかもしれないね。自分もこれ以上寒くなる前に寝てしまいたいからね。」

こんな奴ともこの寒さに関しては気が合うようだった。


    もうそろそろ太陽が暮れる頃だった。「では私はもう寝ることにする。私は春までこの寒さから逃げることに決めた。」私は冬眠とは一体何なのか分からない不安は勿論あったがそれ以上にこの寒さが嫌だった。

  「そうだね、じゃあまた春になったら会おう。おやすみなさい。」私の意識は段々と遠のいていった。